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それからしばらく身を重ねていた。

君の体温と身体の重みだけが世界の全てだったから、肌が離れた途端に心まで冷えるようだった。

私はずっとまどろみに浸っていたいのに、君は先にふたりの夢から覚めて私に背を向けてしまう。あれだけ軽い気持ちで可愛いって言うんだったら、一回くらい好きって言ってくれてもいいのにな。コップに注がれた水を飲みながら、カーテンの隙間から漏れる街灯の光を眺めていた。

 

 

 

 

気怠い充足感を染めていく君の声はとても澄んでいて、それを聞いた私はいつも天国に落ちていくような心地になるのだった。

だけど、私は想像を巡らせてしまう。私の知らない誰かにもこんなことしてたのかな。歌詞の中の「君」だって、どうせ私のことじゃないんだろう。私と目を合わせずに「今でもまだ好きだよ」って歌う君の瞳には誰が映っていたんだろう。そうして勝手に悲しくなる自分が嫌になる。途端に温もりが恋しくなって、ベッドから身を乗り出して君の肩に顎先を乗せた。君は最後の小節を歌い終えてから小さく振り向いて、指先で前髪を撫でてくる。「どうしたの」って聞くはにかんだ表情がきらきら輝いて見えて、憂いが晴れたみたいに錯覚した。

君は私の気持ちを全然わかってないふりをしながら、モルヒネみたいな安らぎだけを心に注いで、未来に関しては一切責任をとらない。だからつくづく残酷だと思う。私は明日の朝を迎えるだけで精一杯で、それだけでも十分な救いになるって分かってないのかな。

私の返事はきっと素っ気なく聞こえた。