ありきたりな自然消滅で終わってしまいそう。あれほど頻繁に会っていたのに呆気ないな。

互いに抱いていた感情に恋愛感情が含まれていたのかを明らかにすることも、もう叶わなくなってしまった。好きと言い合ったこともあるけれどそれが本心なのか、過剰に分泌されるオキシトシンとエンドルフィンに呼応して漏れる台詞なのかはずっと曖昧なままにしていたから。

仮にあの時俺が「付き合おう」とか言っていても相手の人生に責任を取れるわけでもないし、結婚したいだなんて微塵も思わなかったからそれで良かったんだろうけど。

俺は現状に些かの寂しさを感じているけれど、彼女は多分それほどでもないと思う。そこに男女の非対称性があるのではないか。彼女の俺に対する愛着が希薄になっても俺は彼女のことを嫌いにはならないし、幸せでいてほしいという気持ちも消えないけれど、彼女の愛はいずれ完全に風化して景色に溶ける。「女の恋愛は上書き保存」とかいう言い回しがあるけれど、女の恋愛感情だけが特異なんだと思う。ふつう人間に対する愛着の程度は関係それぞれに独立しているものだから。

対等な関係に於いて構築された親愛と、性的な関係による妄執が入り混じったアンバランスな感情を受け入れられるほど器用じゃないから、重要なことを曖昧なままにしていたんだと思う。彼女もきっと同じなんだろうな。「これ言ったら驚くかもしれやんけど彼氏いたことないんよな」とか言いながら処女じゃなかったし。一緒に見たルナルナの画面が本当なのだとしたら、少なくとも1年は他の誰ともしていないみたいなのだけれど。

恋愛感情は架空の信念なのかもしれない。「それとも乳化みたいなものなのかな。熱が冷めたら分離するし」とか言ってみれば修辞としては面白いのだけれど、全ての事象が面白くできているとは限らない。

 

好きだと思えている間にまっすぐ見つめて、彼女ことをいっぱい知ろうとすれば良かったな。

性愛に拠る興味から成る関係は対等ではない。ひとたび恋愛対象として見られてその認知が固定されてしまったら、関係の行きつく先は付き合うか別れるかの二者択一で、俺が能動的に関係を切ろうとしない限りその選択権は相手にあり続ける。その事実を意識すると、首筋を刃物の背でなぞられるような冷たい緊張感を覚える。

恋愛関係においてどれだけ自分が誠実であっても、女性は恋愛感情が冷めたら途端に誠実でいられなくなるものだから下らないと思ってしまう。「ごめんね。もう好きじゃなくなっちゃった」という台詞に返す言葉なんてひとつも存在しない。別れの言葉もなく消えてしまうことだってあるし。

俺が他の誰かから寄せられる好意だって、いつでも関係を切ることができるからこそ発生する恋愛ごっこに過ぎないんだろう。